一部でなく全体をみる「食養生」

 

古今東西、人はいつの時代も、健康で若々しく美しいからだになる薬や食べ物を探し求めてきました。今はどこの書店でも、○○健康法、○○ダイエット、○○で病気が治る、などのタイトルがつけられた本がズラリと並んでいます。
なかでもブームになる食品は実にさまざまですが、これらにはいくつかの共通点があります。解説に食生活という言葉が使われていても、実際は1つの「食べ物」や「栄養素」だけしか取り上げていない場合が多い。さらに、ブームには長続きしないのも特徴の一つです。

「木を見て森を見ず」卵信仰という現象

卵を毎日5個も6個も食べるという人もいれば、逆にまったく食べないようにしている人もいます。前者は「卵には良質のタンパク質がある」ということが食べる理由になっており、後者は「卵はコレステロールが多い」と聞いて食べなくなったといいます。

たくさん卵を食べる人は、卵の中のタンパク質だけしか見ておらず、卵をいっさい食べない人は、卵の中のコレステロールだけしか見えていません。「木を見て森を見ず」つまり、両者とも「卵」という食品の全体像を忘れてしまい、卵の中の一部分(栄養素)だけを捉えて、卵の良し悪しを判断しているのです。

「カルシウム」という食物はない

また、食べ物の一成分だけを過大評価することは、食生活をゆがめる元にもなりかねません。牛乳はカルシウムが豊富と、毎日牛乳を2ℓも飲む子ども。果物はビタミンCが豊富だから、ご飯を抜いてでも果物だけは食べるという若い女性。肉を食べないとパワーが出ないと、ひたすら肉食を好むビジネスマンもおられます。

当人は、このような食事が体によいと思っているに違いありません。しかし冷静に考えれば、それは随分偏った食生活といわざるを得ません。牛乳はカルシウムを含んでいるだけで、「牛乳=カルシウム」ではありません。「カルシウム」「ビタミン」「タンパク質」などという食物は、世の中に存在しないのです。

食物にどんな栄養素が含まれているか。私たちの祖先はそんなことを知らなくても、ずっと生きてきました。だからといって、栄養素を考えることが無意味だということではありません。ただ、「レモンにはビタミンCがたくさん含まれている。ビタミンCは体によいのだから、たくさん食べたほうがいい」と短絡的に理解してしまうことが問題なのです。
「科学的」という言葉のもつ雰囲気に流され、もっと学ぶべき大切な知恵があることを、今の私たちは忘れてしまってはいないでしょうか。
健康は身体や心、生活、環境など、非常に幅広い面でバランスがとれてこそ成り立つのです。食生活を考えるときには一部分ではなく全体をみること、そして極端な方向へ走らないように心がけたいものです。