体温と免疫力(安保 徹)
『HOLISTIC MAGAZINE 2009』
体温と免疫力
講師:安保 徹 <2008年仙台フォーラム講演録>
今の時代に多い長時間労働や人間関係のストレスは、原因はそれぞれ違うものの、交感神経が緊張し続けているという症状はよく似ています。
交感神経は自律神経の1つで、日中活動するときに優位に働いて、脈を増やしたり、血圧や血糖を上げて、筋肉に酸素と栄養を送り込む。ただし、いつも交感神経が働き続けていると消耗してしまうので、夕方あたりからは、自律神経のうちの副交感神経が優位になって、脈や血圧、血糖を下げて、休息モードになって体を癒すわけです。
また、食事を取る消化管活動も副交感神経支配です。今の医学、医療の世界では、高血圧症や糖尿病になっても、原因不明のまま対症療法的に薬を出すという流れで止まっています。
例えば、不眠症にしても、ただ睡眠薬をもらって飲んでいる人が多い。しかし、その原因は、交感神経の緊張からきていて、仕事の無理が重なったり、ストレスや悩みなどで、脈が速い状態に固定されて、夜眠れなくなっているわけです。そして、いつも追い立てられているように不安や体調不良が出てくる。
ですから、交感神経緊張という原因を改善しなくてはいけない。交感神経緊張が続くと、心臓や血管に負担がかかるので、狭心症や不整脈、心筋梗塞、脳卒中などの病気になりやすくなります。
よくやり手のお父さんが頑張りすぎた結果、50代で脳血管障害の病気を発症してしまうケースがありますが、それは突然病気に見舞われたのではなく、長い間交感神経緊張が続いた結果です。
無理をしていると必ず前触れがあります。血流障害からくる顔色の悪さや、手足が冷たくなる。それと筋緊張から起こる肩こり、こむら返り、指がつる、首が硬くなる、しゃっくりが出る、子供だったら歯ぎしりなどです。
がんは「血流障害」と「組織破壊」が原因
特に冷えは万病のもとで、血流障害で体が冷えるとエネルギー産生ができなくなります。そうすると、代謝が抑制され、細胞をつくるタンパク質の合成ができなくなる。それと、代謝産物の不溶化が起きます。
例えば、コレステロールは、使い終わったら、胆汁として腸管に排出されますが、そこで固まってしまうと胆石になります。また、代謝産物である尿酸が結晶化すると、針のような結晶となって神経を刺激し、それが関節に留まると痛風になります。
こういう病気は「頑張り病」です。
これを根本的に改善するには、冷えた体を入浴や湯たんぽなどで温めて、未精白の穀物や野菜、海藻などの食事にするなどして、代謝産物が不溶化を起こさないようにすることです。
交感神経緊張を引き起こす生き方とは、長時間労働と悩みの次に、私が気づいたのは「怒り」です。怒ったときには血圧が一気に上昇します。あまり頻繁に起こっていると我が身が危ない。
私はそれまで生徒を本気で叱っていたんですが、それに気づいてからは、あまり怒らないようにしています。
次は、夏の冷房や冷たい飲み物、アイスクリームなどの食べ過ぎですね。それに、長時間のパソコン使用からくる目の疲れ、夜間の仕事なども交感神経緊張です。
病気にならない免疫生活を送るには、自律神経に支配されている、白血球の中の顆粒球とリンパ球の比率が、大体60対40%の比率で分布しているかどうかにかかってきます。頑張りすぎるとリンパ球が減り、代わりに顆粒球が増える仕組みです。
例えば、長時間強い冷房にさらされていると、交感神経緊張から顆粒球がどんどん増え、大量の顆粒球が粘膜に押しかけて、常在菌と反応して炎症を起こします。
モーレツサラリーマンによくある歯周病は、その例で、夜遅くまで仕事をしている人や、ストレスや悩みを抱えた人が歯周病になるのも同じ理由です。
また、いつも怒っているような人は、痔になりやすく、夫婦喧嘩などで傷ついた人は、突発性難聴になりやすいのも、増えた顆粒球が内耳の粘膜を攻撃して起こるのです。顆粒球が大腸を攻撃すると、潰瘍性大腸炎、小腸を攻撃するとクローン病ですね。
このように、病気には必ず原因と前触れがあります。がんも血流障害と組織破壊が原因で、壊れた細胞が分裂を強要されて、発がんに至るわけで、これも交感神経緊張が生む頑張り病です。
こうしたストレスに起因する頑張り病には、対処療法ではなく、無理をせず、ご馳走を食べたり、できるだけリラックスしてゆったりと過ごすことが大事です。
副交感神経優位に偏るのもよくない
一方、リラックス過剰な副交感神経に偏るのも危険です。
この弱点はリンパ球が増えすぎることで、リンパ球が45から50%位になるとアレルギー反応が出てきます。アトピー性皮膚炎や気管支喘息など、今の時代を反映しているような病気は、副交感神経優位から起きるリンパ球過剰の病気です。そのような人は、過敏で色白の人が多い。
特に、甘い食べ物はリンパ球を増やす力が強いので、子供や成長期の若者は食べ過ぎに注意し、筋肉や骨格を丈夫にするためにも、乾布摩擦をしたり、体操して体を鍛え、気迫が出るように心がけるのが大事です。
また、女性に多い膠原病は、副交感神経優位に偏った人が一気にストレスを受けて起こる病気です。顆粒球が増えて組織破壊が起き、免疫が下がって、ウィルスが暴れ出すことで症状が出てくるのです。ヘルペスやリウマチも同じです。
このように、交感神経の過剰緊張が生み出す脳の血管障害やがん、副交感神経優位から起きるアトピーや膠原病などについて、それらを根本的に治さない医者と、治らないのに医者にかかる患者のコンビになっているのが今の医療です。
最近の研究でわかってきているのは、細胞がエネルギーをつくる仕組みは2つあって、1つがミトコンドリア系、もう一方が解糖系の仕組みです。
前者は、効率が良く、持続的で酸素を必要とし、後者は効率が悪いが、瞬発力があり、酸素はいらず冷やすことで細胞分裂を促します。
ということは、低体温低酸素になっている病人は、体を温めて、ミトコンドリア系を活性化し、成長期の子供や思春期の男性などは温めすぎず、時折寒い環境に身をおいて細胞分裂を促す必要があるといえます。
(HOLISTIC MAGAZINE 2009より)
安保 徹 あぼ・とおる(1947-2016)
1947年青森県生まれ。医学博士。新潟大学大学院医歯学総合研究科教授。72年東北大学医学部卒業。米国アラバマ大学留学中の80年「ヒトNK細胞抗原CD57に対するモノクローナル抗体」を作製「Leu-7」と命名。89年「胸腺外分化T細胞」を発見し、96年に「白血球の自律神経支配のメカニズム」を解明。細胞レベルから免疫を解き明かした新理論を提唱。2016年12月ご逝去。
<著書>
『免疫革命』講談社インターナショナル(2003)
『体温免疫力 ー安保徹の新理論』ナツメ書房(2004)
『自律神経と免疫の法則 ー体調と免疫のメカニズム』三和書房(2004)
『長生き免疫』現代書林(2006)
『50歳からの病気にならない生き方革命』海竜社(2007)
『病気は自分で治すー免疫学101の処方箋 新潮社(2008)
『人が病気になるたった2つの原因ー低酸素・低体温の体質を変えて健康長寿!』講談社(2010)
『人がガンになるたった2つの条件』講談社α文庫(2012)
『安保徹のやさしい解体新書-免疫学からわかる病気のしくみと謎』実業之日本社(2015)
ほか多数。
© NPO法人日本ホリスティック医学協会 All Rights Reserved.
本サイト記事・画像の無断転載・無断使用を禁じます。