セルフケアQ&A

心の創造力で治癒力が促進されるという話しをよく耳にしますが、私の場合、良いイメージを継続させることが困難です。何か効果的な方法がありましたら教えて下さい。

■回答者:蕗野多生先生 (カウンセラー&鍼灸師 タオネットインスティッチュート主宰)
『HOLISTIC NewsLetter Vol.75』(2009)より

 

はじめに

簡潔な表現なのに大変深い質問ですね。ご質問の背景がわからないので回答に困惑しています。そこで回答はやめて、自分の感想を述べることで参考になれば幸いです。
心の創造力で治癒が促進されるかということについては多いに促進されると言えるでしょう。80年代中頃から心と体の相関性、精神と免疫の相関性が論じられる機運が高まりましたが、心の創造力をどのように理解するかにもよりますが、習慣的な考え方、感情、行動、などが健康に影響するということは、容易に理解できることでしょう。
自律神経系、内分泌系、免疫系が互いに連携しており、ストレスがそれらに影響しているという学説は「病は気から」という伝統的な健康観を支持しているようです。ヒポクラテスはギリシャの時代から心のなかで起こることは全て体の現象に影響を与えていると言っています。従って、治癒を促進するためにさまざまな心のアプローチが使われてきたわけです。

イメージの力について  

イメージを使うというのもその一つです。問題はどのようなイメージが健康に一番役立つかということになりますが、特定のイメージに特に効果があるわけではないようなのです。
イメージ療法では良いイメージも悪いイメージも区別なく、状況と目的に応じて使い分けます。ただし、自分でやっても副作用がないのは良いイメージです。今回、治療としてではなくセルフヒーリングとして使う場合は、自分にとって良いイメージを利用します。

さて、良いイメージを継続するのが難しいのは、その通りと思います。成功した自己イメージを使う方法が知られていますが、現在、気になることがあると難しいかも知れません。
一般的には内的なイメージは言葉を添えて使われます。誘導テープ(自分で録音しても可)を使ってみたらどうでしょう。私はクライエントの方にいい気持ちを感じるイメージか自然のなかでくつろぐイメージをよく使います。セルフヒーリングではそれなりの練習が必要になります。しっくり来ない場合は身体感覚に変更したり、内的イメージにこだわらず、音楽や美しい写真、環境ビデオなどの外的イメージを利用してくつろぐこともいいと思います。

プラス思考について

これはポジティブ思考とも言われ、その意味は多様です。①肯定的信念、②楽観的思考、③積極思考、④マイナス思考の回避、などです。
肯定的信念については、治るという強い気持ちや、自己肯定感などを強調する立場があります。「結果を強く信じると現実になる」という成功哲学の考え方と共に広く流布しています。しかし、治癒系の問題に関しては信念の力はあらゆる病気の万能薬とは言えないようです。自己肯定感は大切ですが、それを高めるにはそれなりの時間が必要で、少しでも出来たことを褒めることは有効です。

プラス思考を楽観的思考(物事を肯定的に考える)、積極思考(過去の失敗にこだわらず、前向きに進む姿勢)と理解する人もいます。また、不平、グチを言わない、他人のせいにしない、否定的な言葉を使わない、などネガティブ思考の回避を強調する流派も見られます。そのための沢山の本があるということはそう簡単にはできないことを伝えているように思えます。
ポジティブ思考は気分転換の簡便法としては大変有効ですが、恐れや不安感などの感情を抑圧してしまう傾向があります。無理にポジティブ思考をするのでは意味がありません。ポジティブ思考の強調は成功哲学、願望実現思考の影響かと思いますが、時代的な流行なのでしょうか。
ポジティブ思考を特に強調し過ぎると逆にネガティブ思考も意識してしまうもの。肯定か否定の二項対立の罠にはまってしまいます。ネガティブ思考排除論になると弊害もでてきます。プラスとマイナスの基準は視点を変えると変わってきます。一見否定的なものの背後に役立つものが潜んでいるというのが人生の贈り物です。
プラスもマイナスも意味があり、そのバランスが大切。本来のポジティブとはマイナス思考も受容する器です。大変にネガティブ思考の知人がいるのですが、「自分ほど幸せな者はいない」と語りながら、こちらの幸せまでしみじみと心配してくれます。ネガティブ思考のままでも幸せになれるようです。

内なる治癒力  

心の創造力を語る場合、昔から別の捉え方があります。物事を良い、悪いで判断する前の「あるがまま」を受け入れる働きです。これは、「観察する心」による、静かな心と体のバランス状態、平和に満ちた気持ち、内なる力を感じる状態で、全てのことをより深く体験できるモードです。

この力を健康増進に利用するには、①イメージ誘導、自己催眠②身体感覚を利用するもの・・自律訓練法、バイオフィードバック、漸進的弛緩法、気功、アレキサンダー・テクニック③思考に距離をとるもの・・瞑想法、TM法、呼吸法、ヴィパッサナなど、沢山の代替療法が位置づけられます。ご存知の方法もあるかと思います。これらは、リラクセーション、セルフヒーリング、メンタルトレーニングなどと目的に応じて古くから応用されています。
共通して大切なことは積極的になり過ぎないこと、「受動的注意集中」がポイントになります。なかでも、手軽にできるのは、ヴィパッサナという、仏教の気づきの方法です。呼吸に気づきながら、浮かぶイメージや感情、言葉に気づいて、流していく方法です。
また、ポジティブ思考や内的体験だけにとらわれずに、実際に五感をフルに感じながら、できるだけゆっくり味わいながら食事をすることもお勧めです。日常生活における禅的体験と言えるものです。笑いやお気に入りの唄を歌うことも治癒力を高めます。大切な人との心温まる交流も。自分に合った自然治癒力の高め方は沢山あるのです。