21世紀の医療-スピリチュアル・メディスン(ラリー・ドッシー)

『HOLISTIC MAGAZINE 2013』

21世紀の医療-スピリチュアル・メディスン
癒し、霊性、そして、意識
<講演録> ラリー・ドッシー博士


 

私の家は、ニューメキシコ州サンタフェのメインストリートにあるのですが、実は「サンタフェ」とには「信仰の街」という意味があります。ヒーラーとしてここに暮らすのは、なかなかよいのではないかと思っています。
この地域は昔から癒し、ヒーリングの伝統が色濃く残っているところで、とりわけアメリカ先住民の間には、この伝統が深く根づいています。ごく近くに、世界遺産に登録された「タオス・プエブロ」というところがあるのですが、ここは先住民族が2千年以上にわたって暮らしを営んできた場所で、治癒、ヒーリングの伝統が今も生き続けています。

 

近代医学における意識の捉え方

さて本日、皆さんと一緒に検討したいと思っている課題は「健康に果たす心の役割」「ヒーリングは可能か」「その科学的根拠」の3つです。

まず、医学の近代史を考察することからはじめてみたいと思います。

1860年代からはじまった現代医学の初期の時期には、意識は脳の中だけに限定されているものであって、からだに影響を及ぼさず、健康とは無関係であるとされてきました。そのため遠隔治療、あるいは遠隔ヒーリングは不可能だと考えられていました。

それが、第二次世界大戦が終わってからしばらくすると、意識は脳だけではなく、確かに人間のからだ全体に作用しているとの見解が示されるようになります。しかし、それは特定の個人のからだだけに影響を及ぼすものであり、やはり遠隔ヒーリングは不可能であるとされていました。

ところが、意識が他者のからだ、あるいは健康にも影響を及ぼすというデータが集まりはじめ、私が「非局在的医学」と呼んでいる医学が出現することとなります。
人間の意識は、特定の空間、たとえば脳だけ、からだの中だけという特定の場所や、現在というような時間にも限定されないものであると認識されるようになったわけです。つまり私たちの意識は非局在的な現象であり、他者に影響を及ぼす力があるという捉え方をするようになったのです。
非局在的医学におけるヒーリングの手法には祈り、ジョウレイ、レイキ、セラピューティック・タッチ、ヒーリング・タッチなど多様な手法が存在し、私はいずれも「霊性」、つまり「スピリチュアリティ」が関与していると思っています。

 

医療とスピリチュアリティ

スピリチュアリティというのは、自分はより高次元に存在しているものとつながっているという感覚、宇宙には存在する意味と目的、そして、方向性があるという認識のことです。

スピリチュアリティの特徴は、まず普遍的に、必ず愛と思いやりとともに慈しむ心が込められており、他者への慈悲心と優しさを秘めているということです。また、自己を超越し、存在するものすべてのものにつながっているという実感や心身、魂の統合を伴っています。このあたりはスピリチュアリティとヒーリングがかぶってくるのですが、世界中どこにいても、瞑想や祈りといった、たった一人で行う、たった一人になる時間が関与し、他者に健康になって欲しいと願う明確な気持ちが内在しています。

今、現代医学において、スピリチュアリティに立ち返ろうという動きが見て取れます。なぜかというと、これまで何百の研究が重ねた結果、どのような方法であれ、スピリチュアルな生き方をしている人は、そうでない人と比べて平均で7~10年長生きをするということ、そして、特に死因の上位を占める心臓病や癌という深刻な病気の発症率も低いことが判明し、人間の健康や長寿に非常に大きな影響を及ぼすことが確認されたからです。

1993年に私は、祈りが健康に与える影響を『癒しの言葉』という本にまとめていますが、その段階では全米の医学部、医学校のうち、スピリチュアリティと健康についての講座があった学校は、わずか3校だけでした。ところが現在、全米にある130の医学部、医学校のうち90の医学校において、スピリチュアリティと健康のつながりについて教えています。
また、全米各地の病院で看護師たちが、日常的にジョウレイ、セラピューティック・タッチ、ヒーリング・タッチ、レイキ、祈りなどのヒーリングを行っています。
このような状況はアメリカだけでなく、欧米でも広く見られるようになりました。イギリスでは、非局在的なヒーリングを実践している人が14000人にのぼるといわれています。

 

実証された祈りの効果

そこで、非局在的医学にどのような証拠、エビデンスがあるかを、3種類のカテゴリーに分けてお話ししましょう。1つ目が人以外を対象とした実験、2つ目が人を対象にした研究、そして、三つ目は別のカテゴリーになりますが、自発的ヒーリングの報告例です。

まず人以外を対象とした実験についてですが、この領域においては、バクテリアや菌類にヒーリングや祈りの強い意識を送ることで、増殖率に変化が起きるかという実験をはじめ、植物の成長実験や種の発芽率についても、同様の数多くの実験が行われました。遠隔ヒリーリングの実験例として動物を対象に、遠隔から祈ることによって外科的な損傷の治癒率、治癒速度が上がるか、あるいは腫瘍の寛解導入率を上げるかといった実験も随分行われています。

なぜ、バクテリアや菌類を対象にする実験が重要かというと、ヒーリングの想念を送ることによって増殖率が高まったとしたら、人を対象とした場合と違って、細菌がポジティブ思考を持ったからだとは誰も言えませんし、プラシーボ効果というようなものを排除し、実際に想念や祈りの効果があったということが言えるからです。

ニューヨーク州にある大学で、乳腺がんのマウスに対するヒーリングの実験が行われました。乳腺癌は非常に致死率が高いネズミの癌で、治療せずに放置しておくと30日間で100パーセント死に至る病です。学生たちが繰り返した実験によると、彼らがヒーリングを行ったマススのグループは100パーセント回復をしました。

一方、ヒーリングが行われなかった乳腺がんのマウスのグループは死亡してしまうということが分かったのです。この実験によって、ヒーリング効果が実証されただけでなく、最終的には、一度治ったマウスは乳腺がんに対する免疫力をもつのではないか、ヒーリング自体が伝播する力をもっているのではないか、といえる結果まで導き出されました。
こうしたことが世界中のいろいろな研究室、研究所で繰り返し実証されています。

人を対象とした研究についても、これまで世界中で行われた遠隔ヒーリングの主要な研究を探すと、現時点で簡単に30件くらいは挙げられます。なかには非常にセンセーショナルな結果が報告されているものもがあります。自発的なヒーリングの報告例では、自然寛解、あるいは奇蹟的治癒の例が数多くあります。1993年に出版された『自然寛解』には、20の言語で書かれた800の専門誌の中に、3500の実例が述べられています。

過去30年間にわたって、人の意識、遠隔治癒について明らかになったことは、まず距離は問わないということ。なぜならヒーリングの想念は、地球の反対側で行われても、患者のベットサイドで行われても、まったく同じ強さで同じように働いたからです。そして、他者への共感、慈悲、無条件の愛が非常に重要だということ。また多くの場合、即自的に効果が現れるということです。

 

意識は時間や空間を越える

人間の意識が、特定の空間や場所だけでなく、現在という特定の時間にも制約、限定されるものではないとしたら、私たちはその人の将来に影響を及ぼすことができるだけではなくて、時間を遡って、過去にも影響を及ぼすことができるということになります。実際、現在までに量子レベル、目に見えない素粒子のレベルにおいて、ある意図をもって想念を送ることによって、過去の事象に影響を及ぼしたことを立証した量子レベルの実験が24例あります。

意識が時間的な制約を受けず、物理的な存在を超越しているのであれば、無限に存在するということです。永遠であり、かつ不滅であるということです。まさに「魂は永遠不滅だ」ということになります。
時間・空間どちらにおいても境界がない、無限であるなら、あるレベルのところではすべてのこころ、すべての意識がひとつにつながる存在になっていると考えられます。これが昔から「普遍的なこころ」とか「ひとつの意識」といわれてきたものです。私はこれを「ワンマインド」と呼んでいます。

20世紀の偉大な科学者たちは、この考え方を認識し、肯定しています。その中の一人が、1993年に「シュレディンガー方程式」によってノーベル物理学賞を受賞した物理学者、エルグィン・シュレディンガー博士です。
彼は「意識は単一の実体であって、それを分割したり、掛け算したりすることは無意味なことである。実際にはたったひとつのこころのみが存在するのである」と言っています。
また、20世紀後半で最も影響力があるといわれた物理学者、デビット・ボーム博士曰く「人類の意識の根底はひとつである。これは確かな事実であり、もしこの事実が見えないとしたら、目をつぶって見ないようにしているからである」。

 

3・11が教えてくれたこと

現在、私たちは、人類史上最も重大な定義を突き付けられているのです。非局在的な世界において、私たちは一人ひとりが分離、分断されているのではなくて、全体としてひとつにつながっています。もし私たちがこのことに気づけなかったとしたら、この惑星上において、人類の将来はかなり暗いと言わざるを得ません。私たちが意識を通じてひとつにつながっている存在だとすると、私たちが何を思い、どんなことを意識するかということが、すべてに影響を及ぼすことになります。従って各個人が、たとえば健康のために何かやることが、その人の健康だけではなくて、社会にも地球にも影響を及ぼすことになるのです。

昨年3月11日に私自身がした体験は、一生忘れることはできないでしょう。

その日、私はカリフォルニアで講演をしていたのですが、講演を続けることができなくなってしまいました。なぜなら、聴衆の皆さんが日本で起きたニュースを聞いて、泣きはじめたからです。私が講演を中止すると、聴衆の皆さんは日本の人々のために祈りはじめました。その同じ時、世界中の人たちが日本のための祈りに加わっていたことを後で知りました。聴衆の中には、前の晩にこの悲劇の夢を見たという人が何人もいました。でも、その夢が何を意味しているかは、翌日ニュースを見るまでは分からなかったそうです。

まさにこの経験が、私に「人間はひとつ、人類はひとつである」ということの現実性を教えてくれたのです。決して物語や詩の中のフィクションではなく、現実問題として人間はみな、つながっているのです。つまりこれは、人は自分ひとりだけで苦しむのではないということを意味しています。この一体感が「愛」という言葉で表現されているのだと思います。だからこそ私は、ヒーリングは有効だと思っています。

(了)

(HOLISTIC MAGAZINE 2013より)


ラリー・ドッシー博士

LARRY DOSSEY。1940年アメリカ・テキサス州生まれ。医学博士。テキサス大学医学部在学中に自律訓練法に出会い、治癒におけるこころの役割を探究にするようになる。ベトナム戦争の軍医やダラス市立病院の医長などを務めた経験をもつ。科学的調査データに基づいた意識と自然治癒の研究で世界的に知られている。1995年より代替医療の米国科学研究誌“Explore”誌の編集長歴任。
著書
『魂の再発見』『癒しのことば』(春秋社)
『祈る心は治る力』(日本教文社)など


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