日本ホリスティック医学協会会報誌『HOLISTIC NewsLetter Vol.101』(2019)より

よりよい睡眠をとるために

熟睡感はありますか

2014年にOECD(経済協力開発機構)が世界29カ国の15〜64歳を対象にして行った平均睡眠時間の調査では、日本は韓国に次いで睡眠時間が短いことが分かりました。最も睡眠時間が長かったのは、南アフリカの9時間22分、2位は中国の9時間2分。対して日本は7時間43分でした。さらに厚生労働省の「平成27(2015)年 国民健康・栄養調査」では、日本では平均睡眠時間が6時間未満の人の割合が増加傾向にあることが判明しました。
睡眠時間がたとえ6時間未満でも、熟睡感があり、翌日も元気に活動できるのであれば、それほど気にする必要はありませんが、問題は「布団に入ってもなかなか寝付けない」「夜中に何度も目が覚めて苦痛」「一度起きてしまうとその後眠れない」「寝ているようでいつも熟睡感がない」など、睡眠の質に疑問符がつくケースです。これらのケースは、不眠症のタイプとしてそれぞれ「入眠困難」「中途覚醒」「早朝覚醒」「熟眠障害」と呼ばれています。
こうした不眠状態を放っておくと、知らないうちに「睡眠負債」に陥ってしまう可能性があります。「睡眠負債」は睡眠専門用語で、毎日の睡眠不足が借金のように生活に根付き、蓄積されていくことを指すそうです。

睡眠負債を抱えないように

睡眠負債は気づかないうちに心身を蝕みます。厚労省の健康情報サイトにも「睡眠と生活習慣病との深い関係」が取り上げられており、睡眠負債、慢性的な睡眠不足は「日中の眠気や意欲低下・記憶力減退など精神機能の低下を引き起こすだけではなく、体内のホルモン分泌や自律神経機能にも大きな影響を及ぼすことが知られており、実際に慢性的な寝不足状態にある人は糖尿病や心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患といった生活習慣病に罹りやすいことが明らかになっている」と綴られています。
そのため厚生労働省では睡眠障害を事前に防ぐための方法を12の指針としてまとめています。それが以下の「睡眠障害対処12の指針」(※は編集部の注釈)です。「睡眠負債Check」でYesがあった人は、この指針を基に睡眠習慣を見直しましょう。

<睡眠障害対処12の指針>

1.睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分
・睡眠の長い人、短い人、季節でも変化、8時間にこだわらない。
・歳をとると必要な睡眠時間は短くなる。

2.刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法
・就床前4時間のカフェイン摂取、就床前1時間の喫煙は避ける。
・軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニング。

3.眠たくなってから床に就く、就床時刻にこだわりすぎない
・眠ろうとする意気込みが頭をさえさせ寝つきを悪くする。

4.同じ時刻に毎日起床
・早寝早起きでなく、早起きが早寝に通じる。
・日曜に遅くまで床で過ごすと、月曜の朝がつらくなる。

5.光の利用でよい睡眠
・目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計をスイッチオン。(※心のバランスや眠りにも関わる脳内ホルモン・セロトニンの分泌が促されます)
・夜は明るすぎない照明を。(※パソコンやスマホのブルーライトの刺激は、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの分泌量に影響を与え、睡眠の質を低下させます)

6.規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣
・朝食は心と体の目覚めに重要、夜食はごく軽く、運動習慣は熟睡を促進。

7.昼寝をするなら、15時前の20~30分
(※アメリカでは20分前後の昼寝を「パワーナップ」と呼び、脳と体にパワーを取り戻す実践亭なスキルとして推奨されているそうです)
・長い昼寝はかえってぼんやりのもと。
・夕方以降の昼寝は夜の睡眠に悪影響。

8.眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに
・寝床で長く過ごしすぎると熟睡感が減る

9.睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意
・背景に睡眠の病気、専門治療が必要。

10.十分眠っても日中の眠気が強い時は専門医に
・長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に支障がある場合は専門医に相談。(※いきなり脱力してしまったり、強い眠気に襲われて急に眠り込んでしまうなど、通常の眠気の域を超えるような場合は「ナルコレプシー/過眠症」が疑われます)
・車の運転に注意。

11.睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
・睡眠薬代わりの寝酒は、深い睡眠を減らし、夜中に目覚める原因となる。

12.睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全
・一定時刻に服用し就床。
・アルコールとの併用をしない。

(厚生労働省「睡眠障害の診断・治療ガイドライン作成とその実証的研究班」平成13年度研究報告書より)

一日に感謝して眠りに就く

ぐっすり眠るためには心地よい睡眠環境も必要です。寝室の温度は季節に合わせて19〜27度が適温とされています。寝具はどうでしょうか。マットレスは軟らかすぎませんか。枕の高さは横向きになっても、首が埋まる程度の疲れない高さがベスト。パジャマの材質は、肌触りのよい自然素材がおすすめです。
そして就床時は、今日一日に感謝して眠りに就くというような、穏やかな心持が一番。もし、悩みや気になることにとらわれそうになったら、鎮静効果のある香りや落ち着ける音楽などの力を借りてリラックスしましょう。くよくよしていても、朝にはまた新しい一日がやってきます。不安や怒りはその日のうちに手放してしまえるといいですね。

睡眠負債Check よく眠れていますか?

あなたの眠りの質はどうでしょうか。次の質問の答えに、ひとつでも「Yes」がある場合は、しっかり眠れていない可能性、睡眠負債に陥る可能性があります。

〇 朝すっきり起きられません。
〇 朝食を食べる意欲がありません。
〇 朝に排便がありません。
〇 休日に寝だめします。
〇 午前中に眠くなります。
〇 ベッドに入ってすぐに(※)眠れます。
〇 ベッドに入ってから30分以上眠れません。
〇 夜中に目が覚め、そこから眠れません。
〇 昼間の活動レベルが低下気味です。
※)すぐに眠れる、どこでも眠れるというと問題なさそうですが、蓄積疲労が原因かもしれません。「すぐに眠れる」の場合は睡眠不足や慢性疲労を疑いましょう。

(参考資料:NHKスペシャル取材班著『負債催眠“ちょっと寝不足”が命を縮める』